【今回のテーマ】
先生との出会いをきっかけに「知のシート」として書き溜めていこう!
というお話です。
「仕事でいろいろ経験しているはずなのに、うまく言葉にできない」
「その場では分かったつもりでも、時間がたつと忘れてしまう」
「せっかくの気づきが、自分の中だけで消えていくのがもったいない」
そんなふうに感じることはありませんか。
毎日の仕事の中には、実はたくさんの学びがあります。
お客様とのやり取り、上司や先輩からのひと言、失敗した判断、うまくいった工夫。
どれも、その瞬間は小さな出来事に見えます。
でも、それを書き留めて、少しずつ整理していくと、あとから自分を助けてくれる「知恵」になります。
私はそれを **「知のシート」** と呼んでいます。
きっかけは、広野先生との出会いでした。
1.広野先生の5万枚の「知のシート」に刺激されました
広野先生は、たくさんの「知のシート」を作成されていました。
本当に5万枚あったかどうかは分かりません。
でも、実際に見た印象としては、それくらいあっても不思議ではないほど大量にありました。
先生は、富士通の 「OASYS(オアシス)」を使って、図を入れた文章を作成されていました。
今のように便利な図解ツールがたくさんある時代ではありません。
それでも先生は、自分の考えや知恵を、図と文章にして残し続けていたのです。
時々、私たち若い者に向けて講義もしてくれました。
弟子というほど立派なものではありませんが、先生の話を聞く機会をいただけたことは、
今でも大きな財産です。
ただ、先生の「知のシート」は、かなり難しい。
そのシートだけを見ても、理解できるのは30%くらいなのです。
先生の解説がついて、はじめて完成する。
そんな感じでした。
後で他の先輩に聞くと、こう言われました。
「先生は、自分の出番を考えているから、見ただけでは分からないようになっているんだよ」
なるほど、と思いました。
確かに、先生が語ることで、そのシートは一気に意味を持ち始めます。
でも同時に、こうも思いました。
内容が深いから、凡人には見ただけでは分からないんですよね。
2.私が目指したのは「見ただけで分かる」1枚でした
広野先生の「知のシート」に刺激を受けながらも、私が目指した方向は少し違っていました。
私が目指したのは、
その1枚を見たら、解説なしでも理解できるシート
です。
誰が見ても、何を伝えたいのかが分かる。
仕事の現場で、すぐに使える。
後輩に渡しても、顧客に見せても、考え方が伝わる。
そんな1枚を作りたいと思いました。
もちろん、簡単ではありません。
自分では分かっているつもりでも、いざ紙に書こうとすると、考えがあいまいなことに気づきます。
「これは何を言いたいのか」
「なぜ、そう考えたのか」
「どういう順番で説明すれば伝わるのか」
「どこまで書けば、他の人にも使えるのか」
そうやって考えながら書くことで、自分の頭の中も整理されていきます。
今も、この目標は変わっていません。
誰でも理解できる1枚にすること。
これが、私の「知のシート」づくりの基本です。
3.先生のすごさは、飲んだ後にも書き続けることでした
広野先生のすごいところは、知識が豊富なことだけではありません。
何よりも、書き続ける力がありました。
事務所の近くでみんなで飲んだ後も、先生はそのまま事務所に戻っていきます。
そして、OASYSに向かって「知のシート」を作り続けるのです。
何か発想が広がると、家に帰らずに事務所へ戻る。
そして、思いついたことを形にしていく。
高齢だったにもかかわらず、本当にすごい体力でした。
でも、それ以上にすごいのは、
思いついたことを、そのまま流さずに書き残す習慣
だったのだと思います。
私たちは、良いことを思いついても、つい後回しにしてしまいます。
「あとで書こう」
「今度まとめよう」
「忘れないだろう」
そう思っているうちに、たいてい忘れてしまいます。
発想は、放っておくと消えてしまうんですよね。
先生は、それを知っていたのだと思います。
だから、思いついたら書く。
発想が広がったら、すぐに形にする。
その積み重ねが、大量の「知のシート」になっていったのです。
4.私も図解文書を書き溜めていました
実は私も、それ以前から図解した文書を書き溜めていました。
当時は、Macの 「インスピレーション」というソフトを使っていました。
図解を簡単に書けるソフトが、当時それくらいしかなかったのです。
ただ、広野先生との出会いによって、私の中で意識が変わりました。
それまでは、思いついたことを図にしていただけでした。
でも先生の姿を見て、
これは
意識して蓄積していくものなのだ
と考えるようになりました。
5枚、10枚くらいでは、あまり使い道はありません。
少し書いたくらいでは、仕事の中で役に立つ場面も限られます。
でも、30枚、100枚と積み上がってくると、変わってきます。
「あ、このテーマは以前まとめたことがある」
「あの時の失敗は、今の案件にも使える」
「この図を見せれば、相手に説明しやすい」
そんな場面が出てくるのです。
書き溜めたものは、ある日突然、自分の武器になります。
5.「知のシート」とは何か
私が考える「知のシート」とは、仕事や現場で得た
・気づき
・工夫
・判断基準
・失敗からの学び
・経験知
・人に伝えたい考え方
などを、あとから再利用できる形で書き出し、蓄積するためのシートです。
単なるメモではありません。
メモは、その時の記録です。
もちろんメモも大切です。
でも「知のシート」は、もう一歩進めます。
自分の頭の中にある暗黙知を、他の人にも使える形式知に変える。
それが「知のシート」の役割です。
たとえば、次のようなことを整理します。
・何が起きたのか
・なぜそう考えたのか
・どう対応したのか
・その結果どうなったのか
・次に活かせる教訓は何か
・他の人が使うなら、どこがポイントか
こうして経験を整理すると、ただの出来事が「知恵」に変わります。
「あの時は大変だった」で終わらせない。
「なぜ大変だったのか」
「どうすればよかったのか」
「次に同じことが起きたら、どう判断するのか」
そこまで書くことで、経験が再利用できるようになります。
6.「知のシート」という言葉を使う理由
「知のシート」という言葉は、もともと広野先生が使っていました。
先生が亡くなられて、もう10年以上になります。
当時の関係者で、今もこの言葉を使っている人はいません。
商標登録されているわけでもありません。
それでも私は、勝手に使ってよいものか迷いました。
そこで、今でもお付き合いのある先生の関係者の方に相談しました。
すると、こう言っていただきました。
「池田さんが『知のシート』を使ったら!」
その言葉を受けて、私は今も「知のシート」という言葉を使っています。
単なる名称ではありません。
私にとっては、広野先生から受け取った姿勢そのものです。
考えたことを残す。
現場の知恵を形にする。
次の人が使えるようにする。
そして、自分自身も何度も見直して成長していく。
その意味を込めて、「知のシート」と呼んでいます。
7.現在、1万枚ほど書きたまっています
今、私の手元には約1万枚の「知のシート」があります。
もちろん、すべてが完成度の高いものではありません。
充実していて、すぐに仕事で使えるものもあります。
一方で、メモレベルのものもたくさんあります。
でも、それでいいのです。
最初から完成版を目指すと、書けなくなります。
きれいにまとめようとしすぎると、手が止まります。
大切なのは、まず書き出すことです。
・思いついたこと。
・気になったこと。
・現場で引っかかったこと。
・お客様の反応。
・失敗した理由。
・うまくいった説明。
それらを、まず1枚にしておく。
すると半年後に見直したとき、新しい発見があります。
「あ、この時はこう考えていたのか」
「今なら、もっと分かりやすく書ける」
「この図は、別のテーマにも使えそうだ」
「ここに一文足せば、かなり伝わりやすくなる」
そうやって書き加えたり、構成を変えたりすると、
メモレベルだった1枚が、役に立つ1枚に変わっていきます。
8.良い「知のシート」は時間をかけて育っていきます
「知のシート」は、一度書いたら終わりではありません。
むしろ、書いてからが始まりです。
仕事で顧客に見せてみる。
相手の反応を確認する。
どこで理解が止まるのかを見る。
質問されたところを書き加える。
分かりにくい図を直す。
言葉を変える。
こうやって改善を続けていくと、だんだん良いものに仕上がっていきます。
中には、7年間かけて「これで完成版」と思えるようになった1枚もあります。
7年と聞くと、長く感じるかもしれません。
でも、知恵とはそれくらい時間をかけて育つものなのだと思います。
一度の経験で完成する知恵は、あまり多くありません。
経験して、書いて、見直して、使って、直す。
その繰り返しの中で、少しずつ深まっていきます。
「知のシート」は、書類ではなく、育てるものなんですよね。
9.「知のシート」は自分の成長記録にもなる
書き溜めていくと、もう一つ良いことがあります。
それは、自分の成長が見えることです。
昔書いたものを見返すと、恥ずかしくなることがあります。
「浅いな」
「分かりにくいな」
「今ならこうは書かないな」
そう感じることがあります。
でも、それは成長している証拠です。
当時の自分には、それが精一杯だった。
でも今の自分は、もっと良い形にできる。
その差が見えるから、自分の成長を実感できます。
頭の中だけで考えていると、自分がどれだけ変わったのか分かりません。
でも、書いたものが残っていると、変化が見えます。
「知のシート」は、仕事の道具であると同時に、自分自身の成長記録でもあるのです。
最後に:先生との出会いが、コツコツ続けるきっかけになりました
私がここまで「知のシート」を書き続けてこられたのは、広野先生との出会いがあったからです。
大量のシートを作り続ける姿。
飲んだ後でも事務所に戻って書く姿。
自分の知恵を、図と文章にして残そうとする姿。
その姿に刺激を受けました。
「ここまでやる人がいるのか」
「知恵は、こうやって蓄積するものなのか」
「自分も書き続けてみよう」
そう思えたことが、私にとって大きな転機でした。
人との出会いは、不思議です。
その時は何気ない経験でも、後から振り返ると、自分の人生や仕事の方向を変えていることがあります。
広野先生との出会いは、まさにそうでした。
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