【今回のテーマ】
年収1,000万円の営業マンが独立した話
というお話です。
独立したら裸の自分で勝負するしかなのです。
「このまま会社にいていいのだろうか」
「自分なら、外に出てもやっていけるんじゃないか」
「上司は自分を正当に評価してくれていない」
そんなふうに感じること、ありますよね。
会社の中で一生懸命働いて、成果も出している。
お客様からも感謝される。
売上もつくっている。
それなのに、会社からの評価が思ったほどではない。
そうなると、ふと考えてしまうのです。
「だったら、独立したほうがいいのではないか」と。
その気持ちは、とても自然なものです。
自分の力を試したい。
もっと自由に働きたい。
もっと正当に評価されたい。
そう思うこと自体は、決して悪いことではありません。
ただ、ひとつだけ立ち止まって考えてほしいことがあります。
それは、
今の成果は、本当に自分ひとりの力で生み出したものなのかということです。
ここを見誤ると、独立はかなり厳しいものになります。
1.年収1,000万円の営業マンが独立した話
もうかなり前のことです。
私が独立して5?6年ほど経った頃、高輪にある小さな会社で、ある営業マンと知り合いました。
その会社は、個性的な会長と社長がいて、経営分析のコンサルティング力と、
優秀な経営分析ソフトの販売を組み合わせて事業をしている会社でした。
小さいけれど、魅力のある会社でした。
その営業マンは、当時34歳くらいだったと思います。
若いのに年収は1,000万円ほどあると話していました。
営業マンとしては、30代半ばとしては、かなり恵まれた収入と思います。
ただ、彼は不満を持っていました。
「会社の上司から評価されていない」
「もっと評価してほしい」
そんなことを、よく口にしていました。
34歳で年収1,000万円なら十分ではないか、と外から見ると思ってしまいます。
でも、本人にとってはそうではなかったのです。
自分はもっとできる。
もっと評価されるべきだ。
会社の中では自分の力が正しく見られていない。
そう感じていたのだと思います。
2.「独立したい」と相談されたときに聞いたこと
ある日、彼からメールが来ました。
「独立したいので相談にのってほしい」
という内容でした。
当時のメールはニフティでした。
懐かしいですね。
私は、こう返信しました。
> 事業内容や商品は決まっているの?
> 自分のやりたいことを、欲しい人がいて、
> 欲しい人を満足させる実力があると、
> その実力レベルの収入が得られるよ。
> それが、独立だよ。
独立とは、とてもシンプルです。
これだけです。
でも、この
「これだけ」が本当に難しいのです。
彼から返信はありました。
ただ、この内容についてのコメントはありませんでした。
会う日程の調整だけが続きました。
3.会社を辞めていたのに、事業内容が決まっていなかった
後日、渋谷で会いました。
彼の行きつけのお洒落なお店に入りました。
そのとき、彼はすでに会社を辞めていました。
私から独立の体験談を聞きたかったようです。
ところが、話を聞いて驚きました。
独立するのに、事業内容がまったく決まっていなかったのです。
何を売るのか。
誰に売るのか。
どうやってお客様に出会うのか。
なぜ自分に頼む必要があるのか。
そこが、何も見えていませんでした。
私は、メールで送ったことと同じ話をしました。
> 事業内容や商品は決まっているの?
> 自分のやりたいことを、欲しい人がいて、
> 欲しい人を満足させる実力があると、
> その実力レベルの収入が得られるよ。
> それが、独立だよ。
すると彼は、こう言いました。
「池田さんは、厳しい」
でも、厳しいことを言ったつもりはありませんでした。
これは、独立したら当たり前のことです。
会社を辞めれば、会社の看板も、会社の商品も、
会社が集めてくれた見込客も、会社の信用もなくなります。
その状態で、
裸の自分が問われます。
「あなたは、誰の、どんな困りごとを、どのレベルで解決できるのですか」
独立とは、その問いに毎日答え続けることなんですよね。
4.会社の仕組みの上で成果を出していた
彼が勤めていた会社では、経営分析の本の読者や、講座の参加者から見込客が生まれていました。
つまり、会社がすでに見込客を集める仕組みを持っていたのです。
彼の仕事は、その見込客をフォローしていく営業でした。
もちろん、それも大切な仕事です。
営業力も必要です。
人間関係をつくる力も必要です。
ただし、ゼロから見込客を探していたわけではありません。
・会社が用意した商品がありました。
・会社が築いた信用がありました。
・会社が集めた見込客がいました。
・会社が整えた営業の流れがありました。
その上に乗って、彼は成果を出していたのです。
ここを間違えると危険です。
会社員として成果を出している人には、2つのタイプがあります。
・自分の努力や能力で成果を上げた人
・会社の仕事の仕組みに乗って成果を上げた人
もちろん、現実には完全にどちらかだけではありません。
多くの場合は両方が混ざっています。
でも、独立するときに大切なのは、
自分の成果のうち、どこまでが自分の力で、どこからが会社の仕組みのおかげだったのか
を冷静に見ることです。
これが見えないまま独立すると、とても厳しくなります。
5.魚には水が見えない
会社の仕組みは、普段は見えにくいものです。
魚には水が見えません。
人には空気が見えません。
でも、水がなくなれば魚は生きられません。
空気がなくなれば人は生きられません。
会社の仕組みも、これに似ています。
会社にいるときは、それが当たり前に感じます。
・会社の看板
・商品やサービス
・既存顧客
・見込客リスト
・広告や集客の仕組み
・事務処理
・契約書
・請求書
・問い合わせ対応
・上司や同僚のサポート
・過去から積み上げた信用
これらが、働く人を支えています。
でも、独立した瞬間に、それらの多くがなくなります。
すると初めて気づくのです。
「あれは、自分の力だけではなかったのだ」と。
この気づきが早ければ、まだ立て直せます。
でも、気づくのが遅いと、かなり苦しくなります。
6.「自分はできる」という気持ちだけでは足りない
その営業マンは、結婚していて、7,000万円ほどのマンションも買ったばかりだと話していました。
私は余計なお世話だと思いながらも、心配になりました。
大丈夫なんだろうか、と。
半年ほどして、彼から葉書が届きました。
新しく事業を立ち上げたという案内でした。
そこには、
・コンサルタント
・マーケティングリサーチ
・経営支援
・ホームページ制作
といった言葉が並んでいました。
格好のよいカタカナが並んでいました。
でも、どこか焦点がぼんやりしていました。
誰のために、何を、どのように解決するのか。
その輪郭が見えてこなかったのです。
おそらく数か月、自分探しをして、できそうなことを並べたのだと思います。
ホームページ制作ならできそうだ。
コンサルタントと言えば格好がつく。
マーケティングリサーチと言えば専門家らしく見える。
そんなふうに、言葉を並べて事業らしく見せたのかもしれません。
でも、独立で大事なのは、格好のよい肩書きではありません。
大事なのは、
お客様が本当にお金を払ってでも解決したい問題を、自分が解決できるかです。
ここがないと、仕事は続きません。
7.2年後に再会した彼
それから2年ほど経って、彼から「会いたい」と連絡がありました。
待ち合わせは、神田駅のホームでした。
約束の時間になっても、彼は来ません。
携帯電話での連絡もありません。
私は、待ち合わせで相手から連絡がなくても30分は待つと決めています。
本を読んだり、メモ帳で考えたりしていると、時間は意外と過ぎていくものです。
30分が過ぎた頃、そろそろどこかに入って一杯飲んで帰ろうかと思っていました。
すると電車が着き、ホームの向こうから彼が歩いてきました。
私なら、相手を待たせたら急いで駆け寄ります。
でも、彼はゆっくり歩いてきました。
話を聞くと、事業はうまくいかなかったとのことでした。
離婚し、マンションも売ったそうです。
そして、食品会社に就職したと話してくれました。
でも、名刺も出しませんでした。
うつむきながら、ぽつぽつと話してくれました。
就職した食品会社の事業内容や、自分の担当している仕事についても、
とりとめがなく、よくわかりませんでした。
数年前の、背筋がピンと伸びた優秀な営業マンの雰囲気は、もうありませんでした。
とても、もったいないと思いました。
それ以降、彼からの連絡はありません。
年賀状も住所不在で戻ってきました。
8.独立で問われるのは「裸の自分」
独立すると、会社員時代に見えなかったものが一気に見えてきます。
会社の中では、役職や会社名が自分を守ってくれます。
大企業なら、名刺を出すだけで相手の態度が変わることもあります。
公務員なら、制度や組織の信用が背景にあります。
でも、独立したら違います。
相手が見るのは、会社名ではありません。
役職でもありません。
過去の肩書きでもありません。
見るのは、今のあなたです。
・何ができるのか
・どんな価値を提供できるのか
・信頼できる人なのか
・約束を守る人なのか
・相手の役に立とうとしているのか
・お金を払うだけの理由があるのか
ここを見られます。
少し厳しく聞こえるかもしれませんが、独立とはそういう世界です。
だからこそ、会社員時代の感覚のまま、上から目線で人と接してしまうと、うまくいきません。
独立したばかりなのに、
自分のほうが上だという態度で、同じ個人事業主を出入り業者のように扱う人がいます。
でも、外に出たら、みんな同じです。
肩書きではなく、提供価値と信頼でつながる世界です。
その現実を受け入れられないと、だんだん周りから相手にされなくなってしまいます。
9.1年で戻る人、3年で変わる人
独立して、多くの人は1年ほどで会社員に戻ります。
それが悪いわけではありません。
会社員に戻ることも、立派な選択です。
ただ、独立を続ける人には、ある共通点があります。
それは、
自分の足りなさを受け入れられることです。
独立して3年ほど持ちこたえると、少しずつわかってきます。
・自分には何が足りないのか。
・どこを勘違いしていたのか。
・誰に支えられていたのか。
・どうすれば人の役に立てるのか。
そして、応援してくれる人に対して、心から「ありがたい」と思えるようになります。
この感謝が生まれると、人は変わります。
上から目線ではなくなります。
相手の困りごとを聞けるようになります。
自分を大きく見せるより、相手の役に立つことを考えるようになります。
独立で生き残る人は、強い人というより、変われる人なんですよね。
10.私自身も、ちっちゃな天狗だった
こういう話をすると、偉そうに聞こえるかもしれません。
でも、私自身も独立したての1?2年目は、かなりひどかったと思います。
後から思い起こすと..
独立当初は、仕事が途切れることなく、調子よく進みました。
強気の見積もりも通っていました。
だから、自分には力があると思っていました。
今思えば、ちっちゃな天狗でした。
ところが、バブル景気がなくなり、ソフト業界が厳しい時代に入りました。
私に仕事を依頼してくれていた会社が倒産したり、業務縮小したりしました。
当然、私のところにも仕事は来なくなります。
そこから、自分で仕事を創り出す必要が出てきました。
提案営業をするようになりました。
でも、うまくいきません。
自分の力のなさを痛感しました。
そのとき初めて、自分を変えるしかないと思いました。
この期間は、本当に厳しかったです。
でも、後から考えると、必要な時間だったと思います。
人を変えることも難しいですが、自分を変えることはもっと難しいです。
自分を変えるには、時間がかかります。
私の場合は、3年くらいかかりました。
外圧が、自分を変えてくれたのです。
苦しい状況が、自分の甘さを削ってくれました。
思い通りにいかない現実が、仕事の本質を教えてくれました。
だから、厳しい時期にも意味はあります。
独立した人を何人も見てきました。
そこから、3年続いた人は「何とかなっている!」と発見しました。
まとめ:独立前に、自分の足元を見てみよう
独立したいと思うことは、すばらしいことです。
会社の仕組みは、水や空気のようなものです。
見えにくいけれど、確かに自分を支えてくれています。
そのありがたさに気づける人は、きっと独立しても学び続けられます。
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