今回のテーマは、
企画書を見た瞬間に「きれいだけど、中身がないね〜」と女子大生に言ってしまった
というお話です。
企画書をつくっていて、ふと不安になることはありませんか。
「見た目は整えたけれど、これで本当に伝わるのかな」
「資料としてはきれいだけど、相手の心は動くのかな」
「そもそも、自分が何を言いたいのか曖昧かもしれない」
そんな不安、よく分かります。
企画書って、作れば作るほど“形”に気を取られてしまうんです。
文字の位置、図の見せ方、表紙の雰囲気、全体の統一感。
もちろん、それらは大事です。
でも、もっと大事なのは、その奥にある「何を実現したいのか」という芯なんですよね。
今回は、私が30代半ばの頃にやってしまった、少し苦い思い出を書いてみます。
渋谷の企画書塾に通っていた頃
あれは私が30代の中頃のことです。
渋谷にある「企画書を勉強する塾」のような場所に、月1回通っていました。
普段はそれぞれが課題に取り組み、当日は持ち寄った企画書を見せ合って議論する。
そんなスタイルでした。
参加者は、大学生から中年の社会人までさまざまです。
男女もバラバラ。
肩書きも年齢も関係なく、そこではみんなが対等に意見を交わしていました。
今思えば、とても貴重な空気だったなと思います。
当時は、今のように誰でも簡単にきれいな図をつくれる時代ではありません。
一般的なパソコンといえばNECのPC-98の時代です。
図解をつくるにも、テンプレートと呼ばれる穴あき定規で手書きするようなことも普通にありました。
そんな中で私は、Macの「インスピレーション」というソフトを使い、
図解を中心にした企画書や提案書をつくっていました。
自分のテーマは「分かりやすい図解の企画書」でした。
伝えたいことの構造が一瞬で分かること。
読む人によって理解がバラつかないこと。
文章を長々と読ませなくても、全体像がつかめること。
そういう企画書を目指していたんです。
企画書を見てください」と言われた日
その塾には多くの人がいましたが、意外と「図で分かりやすく伝える」人は少なかったんです。
文章が長く、読む側が頑張らないと理解できない企画書も多くありました。
そんなある日、塾に参加していた女子大生から声をかけられました。
「企画書を見て、アドバイスください」
若いのに熱心だな、頑張っているんだなと思いました。それで後日、渋谷で会うことになりました。
場所は、スクランブル交差点の近くにある地下の喫茶店です。
少し薄暗くて、外の喧騒から少しだけ離れたような場所でした。
彼女はカバンから企画書を取り出し、私の前に差し出しました。
ページを開いた瞬間、最初に思ったのは、
「あ、きれいにできているな」
ということでした。
レイアウトは整っている。文字も読みやすい。
丁寧に作ってある。頑張って時間をかけたことも伝わってきました。
でも、次の瞬間、別の感覚が出てきました。
「これ、何が言いたいんだろう」
誰の、どんな課題を、どう解決する企画なのか。
そこが見えなかったんです。形は企画書になっている。
でも、企画の芯が見えない。
見た目は整っているけれど、読み終わっても相手の行動が変わらない。
そして私は、思ったことをそのまま言ってしまいました。
「きれいに書けているけど、中身がないね〜」
今でも思います。言い方です。完全に言い方なんですよね。
正しいことを言えばいい、わけではない
その後、彼女とは音信不通になりました。
塾でも見かけなくなりました。
たまたま参加のタイミングが合わなかっただけかもしれません。
でも私の中には、「あ、これはやってしまったな」という感覚だけが残りました。
私が厳しくなってしまった背景も、今なら少し説明できます。
すでに自営業として数年やっていて、
「内容が弱い提案は通らない」という現実を何度も経験していました。
どんなに見た目が整っていても。
どんなに文章が上手でも。
どんなに熱意を込めてプレゼンしても。
相手の課題に刺さらない提案は、相手の時間を奪ってしまうだけです。
だからこそ、私は「中身がない」という点に強く反応してしまったのだと思います。
でも、相手は大学生でした。仕事経験がないのは当たり前です。
企画書をつくる経験も、社会人の提案の現場も、まだこれから学んでいく段階だったはずです。
そこに対して、いきなり完成品として評価してしまった。
育てる言葉ではなく、切る言葉を使ってしまった。
帰り道で、遅れて反省しました。ほんとうに。
「ああ、若かったなぁ」と思いました。
アドバイスは、正しければいいわけではありません。
相手の今いる場所に合わせて伝えないと、役に立たないんですよね。
企画書の中身とは、相手への理解です
では、企画書の「中身」とは何でしょうか。
立派な言葉でしょうか。
斬新なアイデアでしょうか。
美しい図解でしょうか。
もちろん、それらも大切です。
でも一番大事なのは、「誰の何をどう良くするのか」が見えていることです。
たとえば、
「誰が困っているのか」
「何に困っているのか」
「なぜ今、それを解決する必要があるのか」
「この企画で、相手はどう変わるのか」
「実現するために、何をするのか」
ここが見えてくると、企画書には自然と芯が通ります。
逆に言えば、ここが曖昧なままデザインだけを整えると、
「きれいだけど、中身がない」と見えてしまうのです。
これは、企画書だけではありません。
文章も、プレゼンも、商品づくりも、人へのアドバイスも同じです。
形を整える前に、相手を見る。相手の困りごとを考える。相手にとっての意味を探す。
そこから始めることが、いちばん大切なんです。
人に伝えるときは、正しさより順番を大切にしたい
あのときの私は、間違ったことを言ったわけではないのかもしれません。
けれど、伝え方は間違っていました。
もし今の私なら、まずこう言うと思います。
「すごく丁寧に作っていますね」
「見やすくしようとした努力が伝わります」
「ここからさらに良くするなら、誰の課題を解決する企画なのかを、最初にもっとはっきりさせるといいですよ」
同じ内容でも、届き方はまったく変わります。
企画書も、人への言葉も、受け取る相手がいます。
相手が前に進めるように渡すことが大事です。
「中身がない」と切り捨てるのではなく、
「中身を育てるには、どこから考えようか」と一緒に見る。
本当は、そういう関わり方をすればよかったのだと思います。
企画書の芯をつくること。
そして、人に伝える言葉にも芯を持つこと。
あの渋谷の地下の喫茶店での出来事は、今でも私にその両方を教えてくれています。
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