「自分の頭の中には、ちゃんとあるんだけどなあ」
そう思っているのに、いざ誰かに伝えようとすると、うまく言葉にならない。そんな経験、ありませんか。
経営者の方なら、なおさらです。
毎日現場を見て、お客さんの声を聞いて、社員のことも考えている。
だから自分の中では、事業の未来が見えている気がするんです。
でも、それを文章にする。図解にする。人に伝わる形にする。
ここで急に、手が止まることがあります。
今回のテーマは、まさにそのお話です。
「新潟日報の記者は上手く書いてくれた。池田さんは書けないの??」
そう言われたときに、私が考えたことを書いてみます。
地域で30年続く会社の社長さんからの相談
ある日、地元で長く続く会社の社長さんから声がかかりました。
その会社は、地域で30年近く営業している会社です。扱っているのは、児童・生徒向けのビジネスでした。
ただ、時代の流れは正直です。少子化の影響は、じわじわ効いてきます。
市場は少しずつ縮んでいく。
競合も、それぞれに頑張っている。
そして、「うちの強みは何なのか」が、以前より伝わりにくくなっている。
そんな中で社長さんは、これからの事業構想を考えて、分かりやすくまとめたいと考えていました。
「池田さん、図解とか使って分かりやすくしてよ」
そういう期待で呼ばれたわけです。
以前から面識のある方でしたので、最初の空気はとても和やかでした。
創業のきっかけ、当時の苦労、どんな思いでここまで続けてきたのか。
そこは本当に熱く語ってくださいました。
聞いていて、こちらも胸が動きます。
長く続いている会社には、やっぱり理由があります。
人の思いがあります。積み重ねがあります。
ただ、問題は「これから」の話に入ったときでした。
想いはある。でも、未来はまだ“おぼろ”だった
未来の話になると、社長さんの言葉はこういうものになっていきました。
「こうしたい」
「地域のためにやりたい」
「もっと喜ばれる形にしたい」
もちろん、どれも大事です。
どれも間違っていません。むしろ、とても大切な言葉です。
でも、事業構想としてまとめる情報としての部品にはなりません。
なぜなら、それはまだ「願望」に近いからです。
願望は、熱量にはなります。
人を動かす力にもなります。
けれど、そのままでは設計図にはなりません。
たとえば、「地域のために」と言ったときに、どの地域の、誰の、どんな困りごとに向き合うのか。
「もっと喜ばれる形」と言ったときに、今と何を変えて、何を残して、何をやめるのか。
「こうしたい」と言ったときに、それはいつまでに、どの状態になっていたら実現したと言えるのか。
ここまで決まって、ようやく文章や図解の材料になります。
私は社長さんに伝えました。
「分かりやすく表現する前に、まず表現する“中身”を一緒に創る必要があります」と。
ここが、今回の大きな分かれ道でした。
「新潟日報の記者は上手く書いてくれた」
すると社長さんは、過去に掲載された新聞記事の話をされました。
「新潟日報の記者は、分かりやすく表現してくれたんだよ」
新潟日報は、新潟県の県紙です。
地元に根ざした新聞ですから、地域の会社や人の歩みを丁寧に取り上げてくれることもあります。
そして社長さんは、続けてこう言いました。
「池田さんは書けないの??」
なかなか、刺さる言葉です。
でも、ここで感情的になると、話を見失います。
冷静に整理すると、記者さんが書いたものと、
今回私に求められていたものは、まったく性質が違いました。
新聞記者さんが書いたのは、
過去の事実です。
創業の経緯、これまでの苦労、続けてきた取り組み、地域との関係。
つまり、すでに起きたことです。
過去には材料があります。
出来事があります。数字があります。エピソードがあります。関係者の声があります。
だから、取材をして、整理して、読みやすく書くことができます。
一方で、今回求められていたのは、
未来の設計でした。
まだ起きていないこと。まだ選び切れていないこと。
まだ形になっていないことを、事業構想としてまとめる仕事です。
過去は、材料を整理すれば書けます。
未来は、材料そのものを創るところから始めなければいけません。
ここが決定的に違うんですよね。
経営者の頭の中では「もうできている」と思っている
この日の一番の難所は、たぶんここでした。
社長さんの中では、未来の設計図は「もうある」ことになっていました。
だから、こういう感覚になります。
「俺の中にはある」
「だから、聞けば分かるでしょ」
「それを池田さんが上手く書けばいいでしょ」
気持ちは分かります。
経営者は、日々ものすごい量の情報を頭の中で処理しています。
現場のこと、お客さんのこと、売上のこと、人のこと、地域のこと。
ずっと考え続けている。
だから、自分の中では全体像が見えているように感じるんです。
でも実際に外へ出してみると、まだ決まっていないことがたくさんあります。
・どこをゴールにするのか。
・何を優先するのか。
・何をやめるのか。
・誰に、何を、どんな順番で届けるのか。
・そのために、どんな体制が必要なのか。
こうした部分が「感じ」のままだと、事業の設計図にはなりません。
きれいな言葉にはできます。
耳ざわりのよい文章にもできます。
でも、事業構造にはできません。
ここを曖昧にしたまま進めることはできません。
3時間話して、仕事にはならなかった
結局、その日は3時間近く話しました。
社長さんの熱量はありました。
会社への愛情もありました。
地域への思いもありました。
でも、「内容を創る」という工程に合意することはできませんでした。
結果として、仕事にはなりませんでした。
正直に言えば、悔しさはありました。
せっかく声をかけてもらったのに、形にできなかったわけですから。
ただ、それ以上に思ったことがあります。
ここを飛ばして仕事にしてしまうと、結局だれも幸せにならない。
無理に「上手い文章」だけを作ることは、もしかしたらできたかもしれません。
でも、未来の中身が曖昧なままなら、その文章は後で崩れます。
読み物としては整っている。
でも、事業の判断には使えない。
社員にも伝わらない。
お客さんへの約束にもならない。
それでは意味がないんです。
後から思ったのですが、もしあの場で何とかお金になる仕事にしようとしていたら、
きっと「100円稼ぐために1000円使う」ようなことになっていたと思います。
無理に受ける仕事ほど、後から大きなコストになることがあります。
これは本当に、何度も身にしみることなんですよね。
「書く」より先に、「創る」がある
今回の出来事で、私の中ではっきりしたことがあります。
過去は書けます。
なぜなら、事実があるからです。
でも、未来は創ってから書く必要があります。
なぜなら、まだ事実がないからです。
未来を伝わる形にするには、まず目的や目標を言語化すること。
そして、それを実現するための方法や手順へ具体化すること。
何を目指すのか。
いつまでに、どんな状態にするのか。
何をやって、何をやめるのか。
誰に、どんな価値を届けるのか。
こういう地味な工程を避けずに進めることが、結局いちばん大事です。
「分かりやすく書いてください」 その依頼の奥には、
実は「一緒に考えてください」が隠れていることがあります。
だから私は、ただ書く人ではなく、内容を一緒に創る人でありたいと思っています。
上手く書くことは大切です。
でも、その前に、上手く考える。上手く選ぶ。上手く捨てる。
未来の文章は、そこから始まるのだと思います。
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