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顧客とSEが、背中合わせに同じことを言っていた
打ち合わせで、こんな経験はありませんか。
お客様は怒っている。
SEも納得していない。
双方が「相手が分かっていない」と言っている。
間に入る側としては、胃が痛くなりますよね。
しかも、よく聞いてみると、どちらも間違ったことを言っているわけではない。むしろ、どちらも正しい。
だからこそ、ややこしいのです。
今回は、私が若い頃に経験した「顧客とSEが背中合わせに同じことを言って、言い争っていた」出来事について書いてみます。
若い頃、提案営業をしていました
まだ若い頃の話です。
あるソフト会社で、私は“係長”という肩書きの入った名刺を作ってもらい、営業としてお客様を回っていました。
営業マンから指定された会社を訪問し、社長や現場の方に話を聞きます。
「どんなシステムを期待していますか」
「いま何に困っていますか」
「この業務は、どこまで自動化したいですか」
そんなことを何度も確認しながら、提案内容を整理していきました。
そして提案書を作り、再訪して説明します。
お客様からOKをいただければ契約です。
契約後は、社内のシステム課長に引き継ぎ、そこから開発に進みます。
当時の私の役割は、いま風に言えば上流工程というよりも、営業としてお客様の要望の概要を固め、
社内の開発側へ橋渡しすることでした。
問題は、都内の切削工具メーカーで起きました
その案件は、都内にある切削工具メーカーでした。
社長とじっくり話し合い、業務の流れも聞き、困っていることも確認しました。
提案内容も気に入っていただき、無事に契約となりました。
私はいつものように、システム課長へ引き継ぎました。
提案書を見せながら、背景も説明しました。
なぜこの機能が必要なのか。
社長が何を気にしているのか。
現場では何が起きているのか。
それなりに丁寧に伝えたつもりでした。
ところが、数日後です。
システム課長から電話が入りました。
「メーカーの社長が怒っています」
「池田さんの言っていたことと、全然違うと言っています」
正直、何が起きているのか分かりませんでした。
提案時に社長とは何度も話しています。契約時にも納得してもらっています。
システム課長にも説明しました。
それなのに、なぜ急に「全然違う」になるのか。
私はすぐにメーカー社長にアポイントを取り、システム課長と一緒に訪問することにしました。
両者の主張を聞いて、唖然としました
訪問して、まずは社長の話を聞きました。
社長は社長で、かなり不満そうです。
「こちらが言っていることを分かっていない」
「そんな話ではなかった」
という雰囲気でした。
次に、システム課長の説明を聞きました。
こちらはこちらで、納得していません。
「いや、仕様としてはこう理解しています」
「社長の言い方では、こういう意味になります」
という主張です。
私は横で、両方の話を順番に聞いていました。
すると、途中から頭の中に「?」が浮かび始めました。
あれ。
これ、二人とも同じことを言っていないか。
表現は違います。
使っている言葉も違います。
話の組み立ても違います。
社長は、経営や現場の流れから話しています。
システム課長は、機能や処理の構造から話しています。
でも、よくよく整理すると、目指している状態は同じでした。
守りたいポイントも同じでした。実現したいことも、ほとんど一致していました。
つまり二人は、向かい合って反対意見を言っているのではなく、
背中合わせに同じことを言っていたのです。
これには、正直、唖然としました。
15分で解決しました
私はその場で、両方の発言を整理しました。
「社長がおっしゃっているのは、こういう意味ですよね」
「課長が言っているのは、システム上こう実現するという話ですよね」
「つまり、目的はここで一致していますよね」
一つひとつ、言葉を置き換えて確認していきました。
すると社長が、
「ああ、そういうことか」
と言いました。
システム課長も、
「そうそう、それです」
とうなずきました。
解決まで、たった15分です。
その後は、せっかく来たので少し世間話をして、お茶をいただいて、30分ほどで帰りました。
帰り道、私は心の中で思いました。
「なんなんだよ……」
往復の交通費。
移動でつぶれた時間。
調整に使った労力。
これ、どこに請求すればいいんだろう。
本気でそう思いました。
でも同時に、この出来事はとても大きな学びになりました。
問題は「内容」ではなく「意味の取り方」だった
この体験で痛感したことがあります。
人は、言葉そのものを聞いているようで、実は言葉をそのまま受け取ってはいません。
言葉から、自分なりの意味を作っています。
社長は、社長の文脈で解釈します。
会社の利益、現場の混乱、将来の運用、社員の使いやすさ。そうした背景の中で言葉を使います。
一方でSEは、SEの文脈で解釈します。
データ構造、処理手順、画面遷移、例外処理、実装可能性。そうした論理の中で言葉を組み立てます。
だから、同じことを話していても、見えている景色が違うんですよね。
表面の言葉だけを見ると、食い違っているように見える。
でも、奥にある意図をたどると、実は一致している。
こういうことは、システム開発の現場では珍しくありません。
そして怖いのは、両者とも「自分は正しい」と思っていることです。
実際、正しいのです。
間違っているのは、相手ではありません。
ズレているのは、解釈の接続部分です。
言葉ではなく、意図の構造を見る
この事件以降、私は打ち合わせで必ず意識するようになりました。
その言葉は、どんな前提から出ているのか。
相手は何を守ろうとしているのか。
何を恐れているのか。
どこを一番大事にしているのか。
言葉の表面だけを追うと、対立に見えることがあります。
でも、言葉の奥にある構造を見ると、実は同じ方向を向いていることがあるのです。
顧客とSEの間に入る人の役割は、単なる伝言係ではありません。
顧客の言葉をSEの言葉に翻訳する。
SEの説明を顧客の文脈に戻す。
そして、双方が本当は同じ目的地を見ていることを確認する。
これがとても大切なんですよね。
15分で終わる話が、翻訳されないまま放置されると、何ヶ月も炎上することがあります。
仕様変更だ、認識違いだ、契約範囲だと、どんどん話が大きくなっていきます。
でも最初に、「その言葉の真意は何か」を確認できれば、防げる対立はたくさんあります。
あの日の往復交通費は、もちろん戻ってきません。
けれど、言葉の奥を読む力を身につけるきっかけになったと思えば、
高くはない授業料だったのかもしれません。
お客様もSEも、敵同士ではありません。
本当は、同じものを作ろうとしている仲間です。
だからこそ、言葉がぶつかったときほど、少し立ち止まってみる。
「この人は何を言いたいのだろう」
「何を大切にしているのだろう」
そこを見に行くことが、良いシステムづくりの第一歩なのだと思います。
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